自由のなる木

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公開日
2022-10-04

Debian が投票によって不自由なファームウェアをインストーラに同梱することに決めた

昨日の話になるが、Debian が投票によって不自由なファームウェアをインストーラに同梱することに決めた。

投票によって決定した内容は、唯一のインストーラに不自由なファームウェアを含むようにし (自由なファームウェアのみを含むインストーラは提供しない) 、Debian 社会契約の改訂も実施するというものだった。

https://lists.debian.org/debian-vote/2022/10/msg00000.html

具体的には、5. の項目の最後に、下記の文言を追加すると言う。

The Debian official media may include firmware that is otherwise not part of the Debian system to enable use of Debian with hardware that requires such firmware.

どのような経緯で投票が始まり、どのような投票候補があったかは、下記のページから確認ができる。

https://www.debian.org/vote/2022/vote_003

私は Debian についての最新情報は特に追いかけてはいないのだが、8 月末くらいにHacker News か何かでこの投票のディスカッションが進行していることを知り、動向が気になっていた。

アクセシビリティ上の問題があることが、起票の主な理由のようだが、背景には他の動機も隠れているようにも思えた。

Debian 社会契約も改訂する1ということもあり、ソーシャルメディアやニュースなどでも取り上げられていた。コメントは賛否両論あったが、この決定を支持するコメントの方が多いように感じた。

決定に不服なユーザーは Trisquel GNU/Linux や GNU Guix に乗り替えるのかもしれない。

私はこの決定によって、Debian が 100% 自由であることを否定することになるわけではなく、不自由なソフトウェアが Debian システムの一部であることを認めることになるわけでもないため、不自由なソフトウェアをどうしても使わなくてはならないユーザーにとっての利便性が高まるだけで、悪いことだとは思わなかった。

不自由なファームウェアが必要で、かつ、Debian を選択するユーザーは、Debian の思想に共感して Debian を選択しているはずなので、例外的な状況を除き、常に自由ソフトウェアを使用することが望ましいと考えているユーザーが多いのではないだろうか。

特にこだわりがなければ、Ubuntu などのディストリビューションを選ぶユーザーが多いだろうから、敢えて Debian を使いたいということはそういうことだろう。

それらのユーザーの手間が省けたり、自力で解決できないがために Debian を使うことをあきらめてしまうユーザーを踏みとどまらせることができるなら、自由ソフトウェア全体にとっては利益になるのではないかと思う。

また、この投票の主目的でもあった、視覚障害を持つユーザーが Debian をインストールする際、テキスト読み上げ機能の動作に必要な不自由なオーディオファームウェアを使えるように変更することが非常に困難であるという問題が解決できることも、望ましい変化だと思う。

これは Debian の歴史上、重要な決定になるものだったのかもしれないが、私はこの勇気ある決定を支持したい。

以上。


  1. 最後の改訂は Version 1.1 を公開した 2004 年 4 月とのことなので、18 年振りの改訂となる。